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世界の3Mから取材の依頼がきた
去年からフルハーネス関連の記事を積極的にリリースしていたところ、1月上旬に3M社から新製品発表会の取材依頼がありました。
3M社のハーネスは実店舗でもなかなか見かけないですし、せっかくの機会なので伺わせて頂きました。
建物の入口から圧倒される
場所は品川駅から歩いて10分ほど。iPhoneのカメラでは収めることができないほど大きい建物です。3M社だけではなく、ジャガー・ランドローバー・ジャパン株式会社やChubb損害保険株式会社などもここにオフィスを構えています。
3M社のエントランス
建物を入るとすぐに近未来的な3M社のエントランスがありました。受付にロボットがいても不思議ではない雰囲気です。
3Mの研磨材技術
エントランスを入ると、3M社の製品の説明がされていました。1921年、3M社が紙に石を砕いて塗布したことから世界初の耐水サンドペーパーが誕生したらしいです。イノベーション!
3Mのスコッチカルフィルム
1950年代に米国の戦闘機の機体胴部で塗装に代わるマーキングシールとして開発されたスコッチカルフィルム。
ディーラーの看板などにも使われているフィルムもこの製品。気づいていないだけで3M社の製品は身の回りに溢れているということに気付かされました。ちなみにこのフィルム、垂直面で約8年の屋外耐候性があるらしいです。
地下の会議室へ移動
そうこうしているうちに時間となり、新製品発表会の会場である地下の会議室へ案内されました。せっかくなので一番前の真ん中の席に陣取りました。
そもそも、なぜ墜落防止が重要なのか?
初めに米国3M ティム・マロウシェク氏より話がありました。
資料のタイトルは「ビジネスについて」となっていますが、「なぜ、墜落防止が重要なのか。」という基本的な話から3M社の安全に対する考え方が述べられました。
フルハーネス、ランヤードだけでは墜落事故は防げない
2019年2月1日からフルハーネスが義務化となりましたが、これは胴ベルトを着用していて墜落を回避できた場合でも、落下時の超激が腹や胸に集中して死亡する事故も発生していることを受けてのことです。一方、フルハーネスは肩や腿などの複数箇所で体を支えるため、落下時の衝撃を分散するという利点があり、フルハーネス着用者の死亡事故は起こっていません。
※日本では年間2万件の墜落・転落死傷災害が発生しており、2018年には墜落事故により、214人の高所作業者が亡くなりました。
しかし、フルハーネスやランヤードだけでは墜落事故は防ぐことはできません。そこで3M社では墜落防止にかかわる、あらゆるものを提供しています。それぞれのカテゴリの頭文字をとって、A~Fの6つに分類されていますので一つ一つ見ていきましょう。
Anchorages(アンカー)
フルハーネスとランヤードは完璧でもフックを掛ける場所がなければ意味がありませんよね。様々な場所に様々な方法で設置できるアンカーが提案されています。
Body support(フルハーネス)
新製品発表会の主役。シンプルで軽量なモデルからレスキューなど特種用途まで、安全性の高いハーネスを幅広くラインナップ。
墜落防止時に骨盤全体に荷重が分散する、快適かつ安全な設計です。吊り下げ状態の時に、股部へのうっ血を防ぐためのストラップも提供しています。(一部製品には標準付属)
Connecting devices(ランヤード)
フルハーネス同様、墜落制止用器具の主役。4m以下の低い場所での作業は巻取式ランヤードがおすすめ。
「3M DBI-サラ Nano-Lok 巻取り式ランヤード」は、作業時は常にランヤード長が最短に。墜落制止時にはロック機能で落下距離を抑制する安全性の高いランヤードです。
Descent and rescue(降下・救助製品)
墜落時に安全に救助する手段を確保するために、救助する器具や救助を待つための製品郡。
墜落防止後、周辺につかまる部分がない現場や救助に時間が掛かりそうな現場での使用に適しています
墜落防止後に吊り下げられた状態になった時に、股部のうっ血を防止し、安全に救助を待つためのハーネスオプションです。
Education(教育)
高所作業に携わる皆様の安全に対する知識や意識の向上、また、ハーネス型案全体の装着技術の向上のために、墜落防止デモンストレーショントラックが全国を走り回っています。
その他、トレーニング動画やVRでの墜落体験などハードだけでなくソフト面でも安全対策に取り組んでいます。
Fall protection for tools(工具墜落防止製品)
工具などの落下物が原因の労災による死傷者は2017年には6,374人にものぼり、このうち43人が死亡しています。
3M社が実施した実験では、3.6kgのレンチを60mの高さから落下させると、その衝撃荷重は1トンを超え、コンクリートや作業用ヘルメットを簡単に破壊しました。
このことからも墜落制止用器具だけでなく工具墜落防止製品も同様に重要であることが分かります。
「墜落防止」に関するスリーエムジャパンの事業戦略と取り組みについて
続いて、スリーエムジャパン(株) 中辻氏より「なぜフルハーネス義務化となったのか」、「3M社のフルハーネスの基本設計」などについて話がありました。
実は墜落防止製品のリーディングカンパニー
3Mのフルハーネスは日本市場へ2017年に参入したばかりなので馴染みがないかもしれませんが、実は1940年から墜落防止用製品を提供しているリーディングカンパニーなんです。
フルハーネスに関しては40年以上の歴史があり、全世界で1,000,000個のフルハーネスを出荷しており、75カ国以上で現場の安全をサポートしています。
フラッグシップモデルである「3M DBI-SERA ExoFit NEXフルハーネス」は現在6世代目でこれまでの3Mの技術が結集されています。
安全性と優れた作業性を実現する6つの基本設計
1.X型背面ベルト
前屈時にも背中のベルトがつっぱらない構造で、多様な動きに追従可能
2.ループ式腰部ベルト
腿部の大きな動きに対し自由度が高い構造です。ベルトが突っ張らず快適な動作をサポートします。
作業時の多様な動きに追従してスライドするため、ベルトが突っ張りにくい。
3.骨盤サポート構造
骨盤を広く支え、墜落制止時の衝撃荷重をでん部全体に効果的に分散します。
4.金属製バックル
太陽光や雨水による劣化が起こりにくい頑丈な金属製バックルを採用。
取り付け・取り外しともにワンタッチなので、一度ベルトを調節してしまえば3箇所パチパチパチと留めるだけで装着できます。
5.フルハーネスに適した素材とステッチ
一部の糸がほどけても全体に伝播しにくい特殊な縫製になっています。
劣化防止のためにベルトは防水加工が施されています。
6.うっ血対策ストラップ(一部オプション)
救助を待つ間、荷重が股部に集中しないよう足をかけることができます。
さらなる安全性・使いやすさのための設計
フルハーネスの管理
インパクトインジケーター
墜落防止時の荷重がかかったフルハーネスかどうか表示
カバー付きラベル
使用履歴や製品のロット番号などの表記がカバーで保護されるため、擦れや太陽光による滅失を防止
ランヤードを使いやすく
大型Dリング
フルハーネスを着た状態でもランヤードの着脱が容易
ランヤードキーパー
ランヤードのフックやロープを掛け、急にフックを外す時もキーパーから容易に着脱可能
4製品から8製品へ
最後にスリーエムジャパン(株) 牛山氏より新製品の紹介がありました。これまでは標準的な作業者向けの製品4点だけだったのが、建設業界を主とした高負荷作業向け製品×2、はしご昇降作業用、柱上作業用を加えた8点にラインナップを拡充。それでは製品を一つ一つ見ていきましょう。
※関係ありませんが、モデルのみなさんが着ているのは「バートル ジャケット 6091」と「バートル カーゴパンツ 6092」ですね!
従来からあるモデル
3M DBI-サラ エグゾフィットネックス
まずはフラッグシップモデルである「3M DBI-サラ エグゾフィット ネックス フルハーネス」です。回転ベルトアジャスターをくるくると回すだけでベルトの長さを調整することができます。緩めるときはアジャスターを引っ張るだけ。フルハーネスをほとんど着用したことがない筆者でも簡単に調整することができました。
続いて、背面を見ていきましょう。特徴的なのは自立するDリング、骨盤サポート構造。実際に着用して吊られてみたのですが、この骨盤サポート構造のおかげで本当に楽でした。ブランコに乗っているくらいの感覚でしたよ。
ここだけの話、他のメーカーのフルハーネスを着用して吊られたこともあるのですが股に食い込んで、辛かったという思い出があります。
AmazonのCEO、ジェフ・ベゾスが風力発電所視察の際に着用していたモデルです。
Fun day christening Amazon’s latest wind farm. #RenewableEnergy pic.twitter.com/cTxeXdsFop
— Jeff Bezos (@JeffBezos) October 19, 2017
3M DBI-サラ エグゾフィット ライト (回転式ベルトアジャスター)
3M DBI-サラ エグゾフィット ライト (パラシュート式ベルトアジャスター)
3M プロテクタ フルハーネス
汚れやすい、塗装や溶接作業におすすめ
3Mで最も軽量なモデル。墜落制止時の安全性能は他モデルと変わらず、お手頃価格を実現。
従来の赤いベルトからよりスタイリッシュな黒色にモデルチェンジ。
新たなラインナップ
3M DBI-サラ エグゾフィット ライト H型
移動・昇降が多い鳶職など建設業の方におすすめ
続いて、向井建設との意見交換通じて開発された「3M ハーネス型安全帯 DBI-サラ エグゾフィット ライト フルハーネス H型」です。サイドループを採用することで上下のベルトが独立するので、激しく動いてもベルトが邪魔しません。サイドループに胴ベルトを通せば、重い腰道具を肩で支えることができます。
骨盤サポート構造は全モデルに搭載されているので、H型でも腿ベルトがずり上がらないようになっています。
3M プロテクタ フルハーネス H型
移動・昇降が多い鳶職など建設業の方におすすめ
続いて、「3M プロテクタ フルハーネス H型」です。こちらも上下のベルトを独立させることにより、激しく動いてもベルトが邪魔しない新しいデザインになっています。ただし、「3M ハーネス型安全帯 DBI-サラ エグゾフィット ライト フルハーネス H型」と比較してリーズナブルなモデルになりますが、パススルーで着脱が少し面倒だというデメリットもあります。
2つのH型フルハーネスの違い
3M DBI-サラ エグゾフィット ライト フルハーネス H型 |
3M プロテクタ フルハーネス H型 |
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価格 | ¥23,171 (税込) | ¥14,317 (税込) | |
安全性 | 骨盤サポート構造 | ○ | ○ |
X型背面ベルト | ○ | ○ | |
金属製バックル | ○ | ○ | |
ベルトロック機能 | – | – | |
可動式胸ベルト | – | – | |
うっ血対策ストラップ | オプション | オプション | |
インパクトインジケーター | ○ | ○ | |
ラベルキーパー | ○ | ○ | |
縫製技術 | ○ | ○ | |
反射材 | – | – | |
作業性 | 回転式ベルト調整機能 | – | – |
パラシュート式ベルト調整機能 | ○ | ○ | |
ループ型腰部ベルト | ○ | ○ | |
道具ベルトと併用可能 | ○ | ○ | |
サイドループ | ○ | ○ | |
ベルトキーパー | – | ○ | |
しなやかなベルト | ○ | – | |
クイックコネクトバックル | ○ | – | |
イージーリリースランヤードキーパー | ○ | – | |
上下色違いベルト | – | – | |
大きなDリング | – | ○ | |
スタンドアップDリング | – | – | |
複合素材パッド | – | – | |
撥水加工ベルト | ○ | ○ |
3M DBI-サラ エグゾフィット ライト フロントDリング付
はしご昇降作時、垂直親綱に接続可能
続いて、「3M DBI-サラ エグゾフィット ライト フルハーネス フロントDリング付」です。はしご昇降用のモデルで、胸ベルトに取り付けられたDリングに垂直親綱や安全ブロックの接続が可能です。
3M プロテクタ フルハーネス ワークポジショニング用
墜落制止・ワークポジショニング兼用
最後に「3M プロテクタ フルハーネス ワークポジショニング用」です。腰部のDリングにロープを接続して体を固定し、両手で作業することができます。
2019年2月1日以降、柱上安全帯は墜落制止用器具としては認められないので、ハーネスを併用して背中部のDリングを墜落制止用として使用することが求められます。
働く人が安全に家族の元に帰ることができる社会へ
私自身が妻子ある身だからかもしれませんが、新製品発表会の中で何度か出てきた「働く人が安全に家族の元に帰ることができる社会」という言葉が胸に響きました。文字にすると当たり前のように聞こえますが、かつて職人さんの間では「怪我と弁当は自分持ち」という考え方もあったことも事実・・・微力ながら、こうした情報を発信することで少しでも墜落事故防止に役立つことができればいいなあと思います。
こんにちは
鳶職やってます
今3Mのサラエグゾフィット
X型を使ってるんですけど
DBIサラエグゾフィットH型は
胴当てとの組み合わせは
どんなふうになるのか
知りたいんですけど
組み合わせの画像とかありますか?
浅利さま
コメントありがとうございます!
ご返信が遅くなってしまい、申し訳ございませんでした。
胴当てとの組み合わせの画像は無いのですが、
胴ベルトとの組み合わせは下記リンク先の画像内「道具ベルトと併用可能」という部分をご参考にして頂ければと存じます。
https://www.bildy.jp/jobsite/harness_safety_belt/70569